ついにシャッターチャンスが巡ってきた

どの丸型ポストも長い歴史を持つ。
中には戦火をくぐり抜けたものもある。
浪速日本橋郵便局長を最後に退職するまで41年間、ポストの傍らで働いた新家一郎さん。
その土地でどんな景色を眺めてきたのだろうか。風景に溶け込んだ姿は想像をかき立てる。
納得のいく写真を撮るには数々の苦難もあった。2002年に高野山で撮影した1枚は特に思い出深い。
降ってますか。
撮影は雪の日と決めていた。
朝、高野山の郵便局に電話して天気を確かめる。
昨夜から雪。ポストの上に雪が積もっていると情報を得て、大阪の自宅から気合を入れて出かける。
雪で路線バスの運行は休止していた。電車で高野山駅まで行き、そこから1時間以上歩く。
ポスト発見の喜びもつかの間、意識は構図に向く。
高野山らしく、お坊さんを入れたい。
撮影場所を決めて待機。妻が用意してくれた懐炉を足と背中に入れていたが、さすがに寒さがこたえてくる。
ブルブル震えながら待つこと2時間半。
ついにシャッターチャンスが巡ってきた。
銀世界の真ん中に黒い袈裟姿の僧侶、左手前に真っ赤なポスト、チラチラと散る雪。
最高傑作だ。
滋賀県彦根市では老舗すき焼き店前の1基を撮影した。
後日、写真展で飾っていると「結構な宣伝をして頂いて……」と店主から近江牛が送られてきた。
つたない写真だが、喜んで頂けたのだと思いがけなく分かり、うれしかった。
郵便局などを会場にして開いた写真展は80回近くにのぼる。
退職後の03年、妻の許しを得て写真集「ポスト物語」を発刊。
05年には全国の同好の士を集めて「丸型ポストの会」を結成した。
当初は10人足らずだった会員も、今では46人に。
郵便局関係者は3人ほどで、あとは主婦や会社員、年齢層も30~80代とさまざまだ。